忘れること

 中3のときに母方の祖父が死んだ。祖父は長い間認知症だった。

  仕事を辞めたあとに認知症になったらしい。私が小学生になるくらいの出来事だった。同じ話を何回もするようになって、最後の方は私と母を混同した(私に向かって「◯子(母)綺麗になったな」と言った。悲しかったし、ちょっと嬉しかったし面白かった)。

 私が大学進学して家を離れると、今度は一緒に住んでいる父方の祖母が認知症にかかった。びっくりした。こんなにしっかり者の祖母がまさか。祖母の認知症は祖父のときよりズンズン早く進んでいる気がする。年に3回くらいしか帰らなくて、会う機会がないからそう思うのかもしれない。祖母は昔からのそっけない口調のまま少しずついろいろ忘れている。一匹しかいない猫が二匹いると言って、一人しかいない父が二人いると言って、一人っ子の私の姉を探す。帰省中、祖母は夜中に車に閉じ込められているから助けてと大声で叫び自分の部屋の押入れに足を突っ込んで困っていた。そのあと祖母は「ご飯を食べていない」と言って二度目の夕飯を食べて寝た。

 小学校三年のときの担任はおっとり太っていて自虐で子供達を笑わせ、みんなに好かれていた。先生が「ボケちゃって」と言って笑いを取るのが大嫌いだった。お前に何がわかるのだと思っていた。私だけそんなことばかりずっと覚えている。