化粧品の適量

 入浴は工程が多い。濡れていない手でクレンジングを顔に塗る、お湯で乳化させて、流して、洗顔フォームを泡立てて、顔を洗って、流して、頭を濡らして、シャンプーで髪を洗って、流して、コンディショナーを塗りこんで、流して、体を洗うタオルを濡らして、ボディーソープをつけて、上半身を洗って、下半身を洗って、足の指を洗って、体の泡をシャワーで流して、タオルの泡も流して、タオルをしぼって、風呂場の壁についた泡を流して終わり。やることが多すぎる。処理落ちしてしまう。しかもこれで終わりではない。髪を拭いて、体を拭いて、化粧水を塗って……の第二章が始まる。毎日やっていることを羅列しているだけで200文字以上もかかった。

 書いているだけで風呂に入るのが面倒くさくなった。そんな日は最低限顔だけ洗う。髪は1日2日洗わなくてもなにもないけど、顔を1日2日洗わないとニキビができるから。

 クレンジングを最初に手に広げる。これを買った時、店員さんに「一回に使う量はさくらんぼ大です」と言われた。

 さくらんぼ大!

 なんてかわいい言葉だろう。化粧の甘やかな雰囲気とよくマッチしている。

 お湯で乳化した後にクレンジングを流す。この乳化というのがどんな効果があるのかいまいち分かっていない。わしゃパスタかという気持ちになる。意味はわかっていないけど、お化粧に詳しい女の子が「絶対乳化は必要!」言っていたから忠実に守っている。意味がわからない工程はかわいくなるためのおまじない。

 化粧を落としたら次は洗顔洗顔フォームのチューブの裏には「適量(2センチ)を出して〜」と書いてあった。さくらんぼ大と比べると味気ない表現だ。

 顔をふいたら今日の風呂は終わり。あとは明日の自分に任せる。今日の自分は化粧品の使用量の表現を調べることにした。

・ピンポン玉大…ヴェレダの頭皮クレンジングの一回の量。あんまりかわいくないけどサイズは想像しやすい。

・パール一粒…化粧下地の量。美しい言葉。しかし、パールの種類によるだろとも思う。

・適量…化粧水、乳液の量、その他。身も蓋もない。私の持っている限り、安い化粧品にはこの表現が多かった。

 「適量」ばっかりで、全然「〇〇大」がうちにはなかった。日常を彩る魔法として、化粧品にはロマンチックな「〇〇大」をたくさん作って欲しい。たとえば、

・グァバ大…どんな大きさか分からないから想像で判断するしかない。味もわからない。

・回転寿司の醤油皿に乗せるワサビ大…サイズの揺れは少なそうだが、目鼻の近くに塗るものには恐ろしくてこの表現は使えない。

・ご飯をおかわりするときに茶碗に一口残す米大…大体ピンポン玉くらいか?そもそも、この文化は意味がわからなすぎる。

 こういうことを考えると目が冴えてくる。今のバイタリティなら頭を洗うことも可能だ。でもやらない。明日できることは明日やる。