保湿

 天気のいい午後で、私は風呂から上がって顔と体にいろいろ塗っている。

 暇で誰かと喋りたい。こんな時に都合がよいのは母方の祖母だった。気兼ねなく電話をかけられるし、割と家にいることも多い。祖母は椅子の近くに子機を置いているから割とすぐに電話に出る。「もしもし」とよそゆきの声で言って、私が誰だか分かると普段のトーンに切り替わる。散歩の帰りに暇なときもよく祖母に電話した。外はガヤガヤして聞こえづらかったろうに我慢強く20分も30分も電話に付き合ってくれた(あの頃の私はかけ放題プランユーザーだった)。電話帳に登録されているにも関わらず、私は祖母の電話番号を手で打ってかけていた。祖母の家の電話番号の語呂合わせが好きだった。

 もうあの電話番号にかけても誰も出ないんだと思うと悲しい。おばあちゃん、不死身だったらよかったのにね〜。祖母が不死身ではなかったので、私は誰にも電話をかけなかった。保湿が終わった。

動物園に行った

 この前上野動物園に行った。桜のシーズンで上野自体はめちゃくちゃ混んでいたが、動物園自体は許せる人口密度だった。

 上野といえばパンダ!勇んでパンダのスペースに向かう。すごい行列だ。これは赤ちゃんパンダ2頭を見るための列だという。70分待ち。さすがスター選手。赤ちゃんパンダの列に並んでいたら園内を一周できなさそうな時間帯だったためしぶしぶ諦める。少し先に進むと大人パンダのゾーンに着いた。大人パンダはそこまで並ばなくてもいいらしい。来たからには絶対パンダを見たかったので助かった。大人パンダのオスの方、リーリーを見ることが出来た。最初はやぐらみたいなところでお餅のように寝ていたリーリーだったが、起き上がったあとは人からよく見えるへりのあたりをずっとウロウロしていた。

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リーリーが歩くと人がウォーと沸き立つ。それを分かっているかのようにリーリーは何往復もへりを歩いていた。これが人気者として生きるってことなんだなと感じ入った。

 リーリーはずっと見ていられるくらいエキサイティングだったが、同じくらいリーリーを見ている人の会話を漏れ聞くのも楽しかった。後ろにいた女子二人組が「 パンダにとっての笹って人間でいうとどのくらいのご飯なんだろうね〜」「肉とか?」「肉は言いすぎじゃない?」という会話をしていた。私も肉は言いすぎだろうと思った。他にも動物博士キッズによる豆知識などを漏れ聞くことが出来た。ふ〜んと思ったけど、なんて言ってたか忘れた。私も友人に「パンダのうんこっていい匂いらしいよ」という豆知識を披露した(藤岡みなみの「パンダのうんこはいい匂い」という本に書いてあった)。

 パンダ以外にもいろいろ見たが、私がパンダの次に見たいと思っていたオカピは残念ながらその日はいなかった。先日博物館の哺乳類展(これも上野)でめちゃくちゃでかいオカピの剥製を見てからずっと気になっていたのだ。めちゃくちゃでかいオカピの剥製は、ミストの最後の方に出てくる森を通り過ぎる謎の生き物を思い出させる。あれには怖いを通り越して畏敬の念を感じた。でかい生き物は神聖だ。ただ、今調べたらオカピはそんなにデカくなさそう。じゃあ私が見たやつは一体なに?急に怖!

夢日記

 1週間ぶりに日記を書いた。日記を書けなかったいうことも一つの日々の記録だなあと思った。

 最近は疲れている。疲れていると夢をたくさん見る。

 昨日の夜は三体の夢を見た。

 三体については流行っているめっちゃ面白いSFということしか知らない。だから昨日の夢で見たのは私のイメージの中の三体だ。広い施設に大勢の若者たちが閉じ込められて、3つの派閥で争いあうストーリーだった。三巴だから三体、安直だ。各派閥にはリーダーがおり、リーダーだけが超能力を持っていた。あるリーダー(この派閥だけ女のリーダーだった)は皮膚がメッキで覆われたように金色だったのでよく目立った。この女は皮膚が金色なことでカリスマ統治をしていた。施設の中を金色の皮膚を持つ女が進む。その後ろに金色皮膚女派閥に属する者たちが100人くらいぞろぞろ着いていく。

 シーンが切り替わり、金色皮膚女と他の派閥のリーダーが睨み合いになった。他の派閥のリーダーが金色皮膚女に水をピシャッとかけると、女の皮膚は水をかけられたところだけベージュに変わった。「こいつの能力は偽物だ!」糾弾されても女は全く反応しない。ただ目を閉じで水を滴らせていた(ちなみにその後、女の皮膚はすぐに金色に戻った。)。私はその諍いを遠くから見ていた。

 ストーリー仕立ての壮大な夢を見るとき、私は中心にいないことが多い。中心にいないから争いに巻き込まれない。いつも争いを矢が当たらないところから見ている。夢の中でも私はビビリだ。

 偽三体が完結する前に起きた。女の皮膚の色が変わるシーンは良かったな〜と思って忘れないうちにメモを取る。メモを取っているうちにちょっと目が冴えて来たので、本当の三体のストーリーを検索する。夢で見たのと全く違う。

はじめてのジェルネイル

 1ヶ月くらい前に人生初めてのジェルネイルをした。

 これが大正解でびっくり。爪がかわいいだけで桁違いに嬉しい。まだ知らない嬉しいことってあるんだ!と思った。マグネットネイルというやつをしたので、指の角度を変えるとキラキラや色味が変わって面白い。おばあちゃん家にあった万華鏡をを思い出す。暇な時はず〜〜〜っと自分の手を見ている。時間が経ってもまったく見飽きない。私は赤ちゃんみたいなぷくぷくの指と手なのがコンプレックスだが、ネイルをするとお姉さんの手っぽく錯覚するので自分に自信が持てる感じもする。

 これまでジェルネイルに対していまいちピンと来ず、みんなやってるけど私はいいかな〜と思っていた。だが、1ヶ月前に友達と遊んだときに、友達の爪があまりにかわいくて急にやってみたくなった。友達の爪は初代プリキュアのほのかちゃん(白い服の方)みたいなめちゃくちゃラブリーな仕様になっていた。自分の爪にほのかちゃんが宿ってるのめっちゃ上がるじゃん!と思った。思い立ったが吉日、すぐ予約して友達と遊んだ次の日に近所のネイルサロンでやってもらった。

 本当に大正解!こりゃみんなやるわな!めちゃくちゃかわいいもんな!

 弊害としては、ジェルネイルをしている期間は自分で爪を切れないので、爪が伸びて来てコンタクトを取るのが大変になってしまったこと。一回取るのを失敗すると、目側が本能的に開かれるのを拒否するから前より時間がかかるようになってしまった。みんなどうやってんだろう。なんか専用の道具とかあるのかな?

 1ヶ月経って頃合いかなと思ったので今日またアップデートしてきた!今回は白っぽい黄緑色のワンカラーにした。ファイヤーキングのコップの色のイメージです!かわいい〜〜〜!

 

【感想】抱擁、あるいはライスに塩を

 小さいころ魔女の宅急便を見る時はキキとジジが話せなくなる前の所でビデオを止めていた。相棒と急に話せなくなるのが辛すぎて見ていられなかった。万物は流転するという真理を受け入れられなかった。私は変化が嫌いな子供だった。

 「抱擁、あるいはライスに塩を」は上下巻からなる(文庫版)江國香織の小説で、大きなお屋敷に住む柳島家をめぐるサーガだ。

 上巻で柳島家がどんなお家なのかが分かる。普通とは違うけど面白い一族だ。お金があって、教養があって、愛がある。家族全員がお家のルールを守っている。奇妙だけど高貴だ。上巻の柳島家はみんな元気で、夏のように栄えている。ずっとこれが続いて欲しい。お父様はシャキッとしていて、菊乃や百合は若いまま、子供たちは子供のまま。

 ところが栄華は永遠には続かない。下巻になると柳島一族にも秋が来る。お家にいる人数がだんだん減り、一族に影がさす。

 この本を買った大学生のころ、私は変化が嫌いなままだった。柳島家が盤石に見えた上巻は好きだったが、だんだん一族がほどけていく下巻は読み進めるのが辛かった。最初に読んだ時は光一の彼女の涼子が嫌いだった。一族のルールを乱すな!と思っていた。涼子は外から来て光一を無理やり屋敷の外に連れ出す空気の読めない女だと思っていた。今回読み直して、涼子に対する「何よこの女」感が前より少ないことに驚いた。涼子が光一をかっさらって行ったことは、なんかもう仕方ないと思える。

 避けられないことは避けられないと知ったからかもしれない。変わるまでは怖いけど「なんとかなれーッ」と突破するしかない。そして意外となんとかなる。魔女の宅急便を執拗に前半だけ見ていた女の子も大人になった。私はもう物語を最後まで見届けられる。

 あと、この本は下巻についている解説がべらぼうに面白い。こんなにしっくり来る解説にはなかなか当たらない。こういう風に物語を解釈して文章に起こせるというのは素晴らしい才能だと思う。江國香織はスター性がすごくて、読むと彼女に憧れてしまう。だから解説に寄稿する人の文章が江國香織っぽくなってしまう(ように見える)ことも多い。一方で「抱擁、あるいはライスに塩を」下巻の解説は、江國香織の文章の魅力と一定の距離を保ちながら書かれており、もはや柳島家のノンフィクションを読んでいるような気になる(物語の中では柳島家をそれぞれの登場人物の目で見ていて、解説ではそれを第三者の自分の目で再確認している感じ?本文→解説で、一人称から三人称になるからそう感じでいるのか?)。この本のタイトルの意味するところを紐解く文章は丁寧な証明のように美しい。

 解説を書いたのは、野崎歓(のざきかん)という人。フランス文学者らしい。この人に読書感想文を教わりたい。 

リプトン

 春の私の血液はリプトンのピーチティーで出来ている。

 リプトンピーチティーが大好きだ。あんなに美味しい飲み物は他にない。自制しないと毎日飲んでしまうけど、甘い飲み物はてきめんに太るので必死に我慢して日をあけて買うようにしている。でもリプトンピーチティーは桜のようにすぐ消えるので、そんなに悠長なことは言ってられない。何で期間限定なんだろう。頑張って夏くらいまで売って欲しい。

 コンビニでリプトンピーチティーを買うと、店員さんに「ストローつけますか?」と聞かれる。あの長いストローは高校生の頃を思い出させる。何でか分からないけど、あの頃の高校生はみんな1Lの紙パックジュースに長いストローを差して飲んでいた。県立の図書館には飲み物を飲んでもいい勉強スペースがあって、テスト期間には席がパンパンになるくらい市内の高校生が集まっていた。どこのテーブルにも1Lの紙パックが置いてあった。私も例に漏れず、リプトンを置いて勉強していた。もも水とかなし水とかもあったけど、私はもっぱらリプトン派だった。飲んでいたのはピーチティーではなく青いパッケージのミルクティーだったと思う(ピーチティーを飲んで勉強した記憶があまりない。春はテストがなかったんだっけ?)。1日図書館にいる日は平気で3Lくらいリプトンを飲んでいた。もはや勉強よりもお茶を飲んだりトイレに行ってたりしていた時間のほうが長かったかもしれない。

 高校生に戻ってもう一回ちゃんと勉強したいな〜と思うが、あの頃のようにガブガブ甘いものを飲むことはもう出来ないな。

 青色に惹かれる。青といってもたくさんあるが、私が今求めているのは青とネイビーの中間みたいな青色だ。みずほ銀行の青色がかなり理想に近い。特定の色に惹かれるというのはセンスがある感じでかっこいいが、私のおしゃれ嗅覚が鋭いわけではなく、たぶん青色が流行し始めていて、ちょっとずつ見る機会が増えたからだろう。マティスのBlue Nudeを見て「今年はこの青!」と確信したのも、それまで潜在的に蓄積されていた「青色いいな〜」という気持ちが絵を見て顕在化されたからに違いない。

 私は脳みそに情報をジャブジャブ入れるのが好きで、そのおかげで人気になるものの仕入れ時期がほんの少しだけ早い。数年前にフレアな形のカラーパンツが流行った時期があったが、私はブームになる半年前くらいからパキッとした緑色のフレアパンツを買って気に入って履いていた。購入当初は「ちょっと派手すぎかも」と思っていたが、しばらくしたらパキッとした緑のフレアパンツを履いている人をたくさん見るようになった。

そんな感じで、みずほ銀行ブルーも今は「私がこの色いいな〜」と思っているだけだが、今後ババーンと流行ると思う。服とかじゃなくて、絵とか花瓶とかクッションカバーとか家に置くものとして流行る気がする。

 私は仕入れ時期はちょっと早いが、それを気に入っている期間がかなり長い。今は緑のフレアパンツを履いている人はあんまりいないが、私はまだ履いている。早く走り始めて、みんなと並走して、いつの間にか追い越されている。みんなが青色の花瓶を家に置かなくなっても、私の家には青いクッションカバーが鎮座ましましているだろう。