猫不在

 私が22歳になるのと同時に実家の猫が死んだ。母から誕生日の次の日に電話がかかってきてそれを知らされた。

 4月の少し前に猫は階段から転げ落ちるように、という言葉でも足りないくらい、バンジージャンプから落ちるように元気がなくなり、毎日通院の生活になった。一週間前まで、前足でちょいちょいと人の夕ご飯のおこぼれをねだっていたのに、流動食を注射器でぺろぺろ食べるオムツ猫になってしまった。大体の猫は歳をとると腎不全にかかるらしく、うちの猫もそうだった。

新学期が始まるので泣く泣く一人暮らしのアパートに戻った。誕生日の前日に母に電話をかけたところ、猫に代わってくれて猫は私の声を聞いて自力で水を舐めた。それが彼女の最後の食事だったらしい。

  猫は火葬されお墓に入った。私はまた猫の亡骸を見ることができなかった。

 実家に帰って改めて猫不在の空気を感じる。猫のご飯がないこと、猫トイレがないこと、寝る前にドアを少し開けておく習慣がないこと。「不在がより存在を濃くする」というようなことを誰かが言っていたのを思い出す。