保湿

 天気のいい午後で、私は風呂から上がって顔と体にいろいろ塗っている。

 暇で誰かと喋りたい。こんな時に都合がよいのは母方の祖母だった。気兼ねなく電話をかけられるし、割と家にいることも多い。祖母は椅子の近くに子機を置いているから割とすぐに電話に出る。「もしもし」とよそゆきの声で言って、私が誰だか分かると普段のトーンに切り替わる。散歩の帰りに暇なときもよく祖母に電話した。外はガヤガヤして聞こえづらかったろうに我慢強く20分も30分も電話に付き合ってくれた(あの頃の私はかけ放題プランユーザーだった)。電話帳に登録されているにも関わらず、私は祖母の電話番号を手で打ってかけていた。祖母の家の電話番号の語呂合わせが好きだった。

 もうあの電話番号にかけても誰も出ないんだと思うと悲しい。おばあちゃん、不死身だったらよかったのにね〜。祖母が不死身ではなかったので、私は誰にも電話をかけなかった。保湿が終わった。