小さい頃、世界で一番猫が好きなのは私だと思っていて、半ば今もそれを信じている。

 おばあちゃん家に黒い猫がいて、私の一番最初に喋った言葉はその猫の名前だった。顔が逆三角形で目が緑で、決して怒らず、よく喋り、すぐ膝に乗る美しい猫だった。21歳まで生きた。ビャオビャオとしゃがれて鳴いて、お腹の部分はまだらに白髪になった。彼女が亡くなる1日前に私はおばあちゃん家にお別れの挨拶をしに行った。中学三年生の時だった。まだ生きてたのに私は涙が止まらず、彼女がビャオビャオ言って私はまた泣いた。

  その晩彼女はおばあちゃんの寝室まで出向いて挨拶をし、次の日人形みたいになってしまった。

  私は一度だけ、彼女が喋るのを聞いたことがある。「う〜〜ごはんっていったの〜〜お利口さんだね〜〜」みたいな飼い主の思い込みの感じじゃなくて人間の私に分かる言葉で喋っていた。ちゃんとした文章で「そこは寒いから下に行って早く寝なよ」みたいなことを言われた。ほかの猫が喋ったところはまだ聞いたことがない。