猫の頭蓋を掴んだことはありますか?掴むと言うのは手のひらをお椀のようにゆるく丸めて猫の頭にかぶせる行為のことです。

猫の頭は丸くてふかふかで、片手におさまるくらい小さくて温かい。手を離すと耳がジョンと立って元に戻る。猫。この世で一番大好きな毛むくじゃら。

猫の頭はいつも乾燥機にかけた後の布団のような匂いがする。

猫はいつも私の人生を追い越していく。こんなに辛いことがあるかよ。

抜け殻

 垢舐めという妖怪がいる。お風呂に入らない子供のもとに訪れ、夜な夜な垢を舐めるのだそうだ。初めて垢舐めの存在を知った時、私はそもそも垢をしらなかった。妖怪に舐められるのは気持ち悪いが、そもそも垢とはなんなのだろうか。小さい私には存在の現実味がなく、舐められるより、寝ている間に布団をひっくり返される方が怖かった。

 祖母の風呂には赤い手袋がひとつあった。猫の舌よりざらざらしている。体を擦るためのものだが、子供は使ってはいけないらしい。そう言われると、肌がずりむける気がして恐ろしかった。

 熱いお湯から上がって、濡れた背中をウルヴァリンのように大きくかくと、爪の間にグレーのもやもやが詰まる。黄色い皮膚の死骸がこんな色なのは驚きだ。毎日洗っているのに毎日垢がでる。毎日脱皮しているみたいだ。限界まで垢を溜めたらつるんと上から下までむけるのかしら。そして通な垢舐めはこれを収集しているのかもしれない。それはちょっと嫌だ。

 

 

 

妄想

 教室にいきなり強盗が入ってくるような妄想が23になっても治らない。一生背負っていく業なのかもね。へっぽこだったが剣道部だったので、傘さえあれば並の強盗には対処できると信じている。

 友達が入社した会社についてあまりにキラキラして話すので目玉が痛くなってしまった。同期が「うちの会社は〜」と当たり前のように言う中私はずっと預けられた猫のような気持ちでいる。

 あんなに仲良しだった妄想とみんなはいつ決別したのだろうか。私はいまだに星野源と友達になれる気がしてるのに。

空想の間取り

 空想の中に出てくる洗面所は祖母の家の洗面所を元に作られていることに最近気づいた。

 入って左側に三面鏡と洗面台があり、すぐ後ろが脱衣所で蛇腹に開くドアを開けたら風呂がある。

 風呂と言われて想像するのは2パターン。「お金持ちの家の広い風呂」なら私は新宿のテルマー湯が思い出される。白くて浅い綺麗なお風呂。「昔ながらの温泉」は昔家族で遊びに行った秋田かそこらへんの温泉。お湯が黒くて、足がつかないほどに深い(そのお風呂は混浴になっていて、私は幼心に衝撃を受けた。自分はまだ男湯でも女湯でも入っていい年だったのにも関わらず)。

 空想はディティールが大事。

 江國香織の物語に出てくるおしゃれな家のテーブルはガラスが多いし、四畳半神話体系の畳は卍敷になっている。

 しんちゃんの家の二階はほとんど本編で出てこないが、階段の作りが叔母の家と似ているので叔母の家の二階と近いに違いないと思っている。

 

 

天高く

 今年の秋はいつにも増して食べ物がうまい。特に秋らしい食べ物を食べているわけではないが、生理前の暴飲暴食とのダブルパンチでむっちりと太ってきた。

 横を向いた時のえぐれるくらい薄い自分の腹が好きだったのだが、最近はいつでもぽちゃぽちゃしている。

 好きなものを好きなだけ食べたからこうなったのかハッピーな太り具合で、私の体はつやつやだ。クリムト展に行った時、人の肌がヌメヌメとした生感があったのに驚いた。あれは青を下に塗っているからだと思う(絵のことはよくわからないけど)。人の肌に使うような例えじゃないがナメクジのような湿度があって色っぽかった。クリムトの描いた女性の肌が青いなら今の私の下地はピンク。しっとりした鶏ハムのように輝いている。

 太ってもこんなにハッピーだし自分が大好き。それって最高。

 (2キロ太っていました。あご下がもたもたして頬がパンパンなので痩せます)

 

 

箸 石

 箸の正しい持ち方について度々議論が起こる。できないと恥ずかしいみたいな風潮がある。

 箸の持ち方なんてどうでもいいじゃんと思う。食事の時だけ適応される棒2本の正しい持ち方ってなんだよ。

 私がこう思うのは箸の持ち方に自信がないからに違いない。自分ができないことは棚に上げてしまう。 私が自信を持って正しい持ち方をしていると言えるのは習字の筆だけで、箸の持ち方は直したつもりだけど怪しいし、ペンは人差し指に力がかかる疲れる持ち方でしか持てない。

 性善説を信じたいけど、人って自分が優れてると思わなきゃ生きてけない。

 

 グループ内でのいじめに加担していたと思われる女の子がテレビに出て叩かれていた。あんなことしたくせによく出られるなというのが最初の意見だったが、彼女の手元がアップになったくらいから批判の種が変わってきた。彼女の指には毛もしくら毛穴がうっすらとあり、みんな手入れをしていないことについてワイワイ言い出したのだった。

 彼女のしたこと(したのであれば)は悪いことだし、被害者の子がまだ苦しんでいるとしたら、それを忘れたみたいにニコニコしているのを見て怒る人の気持ちもわかる。それだとしても、彼女の容姿を晒しあげて良いことにはならないと思う。

 この件に限らず、一度何か失敗してしまった人がそのあと何をしても叩かれてしまうのを見るのが辛い。許されることじゃないのも分かってるけど、その人の人格までどうして外野が批判できるのか。

 自分が加害者になったことなどないみたいに喋れる人が怖い。

 私は私が蹴った石が誰かを怪我させるのではないかとビクビクしている。

 

 

 

 自分自身の運の良さをすっかり忘れて不安なまま最近生きていた。一昨年に初めてすぐやめた日記に「取り越し苦労は起きないよ、安心しな」とだけ書かれており、昔の自分からのアドバイスが的確すぎてちょっと笑えてしまった。

 そうだった、私は運の強い子。大丈夫に決まっていた。

 いくらでも寝てられるので下手したら一日12時間くらい寝ている。腰とメンタルがヘロヘロしてきた。睡眠不足同様に睡眠過多も体に良くないらしい。試しにいつもより4時間くらい早起きしたらまあ調子がいい。体がワクワクしている。