抜け殻

 垢舐めという妖怪がいる。お風呂に入らない子供のもとに訪れ、夜な夜な垢を舐めるのだそうだ。初めて垢舐めの存在を知った時、私はそもそも垢をしらなかった。妖怪に舐められるのは気持ち悪いが、そもそも垢とはなんなのだろうか。小さい私には存在の現実味がなく、舐められるより、寝ている間に布団をひっくり返される方が怖かった。

 祖母の風呂には赤い手袋がひとつあった。猫の舌よりざらざらしている。体を擦るためのものだが、子供は使ってはいけないらしい。そう言われると、肌がずりむける気がして恐ろしかった。

 熱いお湯から上がって、濡れた背中をウルヴァリンのように大きくかくと、爪の間にグレーのもやもやが詰まる。黄色い皮膚の死骸がこんな色なのは驚きだ。毎日洗っているのに毎日垢がでる。毎日脱皮しているみたいだ。限界まで垢を溜めたらつるんと上から下までむけるのかしら。そして通な垢舐めはこれを収集しているのかもしれない。それはちょっと嫌だ。