東京

 東京生まれのおばあちゃんは標準語で話す。

 そりゃその通りなのだが、私はかなり驚いた。東京の銭湯ではおばあちゃん同士が「〇〇さんはお店をやってらして」「あらそうなのね」と会話している。なんて上品なんだ!と衝撃を受けた。田舎で生まれて田舎で育ち、おばあちゃんというものは須く訛っているのだと思っていた。おばちゃんの世代の人が何を言っているのか100%理解できないのは当たり前。逆もまた然り。東北の孫と祖父母はそのことを暗黙に了解して喋っている。「あ〜たぶん〇〇ってことだよな」とぼんやりした理解で話を進めることも多い。もっと方言が強いおばあちゃんだと本当に何を言っているのか分からないから「へへへ〜」でやりすごす。

 東京ではおばあちゃんも孫も同じ言葉で喋る。おばあちゃんと100%理解し合える言葉で会話できるとは羨ましい。

  東京生活も今年で4年目。土地にも多少明るくなった。親に「今日は乃木坂の美術館に行った」「今日は阿佐ヶ谷でジェラートを食べた」と自慢するが、ふとした瞬間に「ここは東京なんだ。私が育った土地とはやはり少し違うね」と思う。

 私が上京したのはちょうど世界でコロナが流行り始めた頃だった。スーパー以外のほとんどのお店が閉まり、ショッピングが娯楽の私には辛い時期だった。緊急事態宣言が解除されて一番最初に行ったのは無印良品だ。不要不急じゃない買い物が嬉しくて要るものも要らないものも無闇に買ってしまった。レジは爆込みで誰もが買い物の喜びというよりも、買えるものを買えるうちにと焦っているようだった。その後、何度かの緊急事態宣言を経て、最近はようやく電車に乗ってあちこち出かけるようになった。外に出られない期間が長かったので、東京に馴染んだ実感がないままぬるっと時間が経ってしまった。東京に住んでも自動的におしゃれになるわけではなかった。木綿のハンカチーフを歌った人もこれなら安心してくれるだろう。