咳をしても

 寒くなったからか恋人がいない冬の寂しさが身に沁みる。長く付き合っていた人に秋に振られて1ヶ月ちょっとが経った。今年に入ってからガタガタの関係だったので仕方なかった。むしろ悪役をしてくれてありがとうとさえ思う。

 先日、別れてはじめてその人が夢に出てきた。その夢のストーリーや夢で私が感じたことを考えるにつけ、私がその人に向けている感情は恋愛から執着に変わってしまっていたんだなと思った。夢の中で私は彼に、私のために傷つけばいいのにと思っていた。夢だけど本当に情けなかった。自分の最悪さを知ってしまって、別れた時よりも落ち込んだかもしれない。

 交際年数に比例して思い出も多く、それゆえに胸が苦しくなるトリガーも溢れている。カップルを見るだけで「私にもああいう時代がありました。今は……」と卑屈になる。しかも東京にはカップルが多すぎるので卑屈になる回数も多い。

 組数が多いだけではなく、いろんなカップルがいる。雰囲気が似てても全く違くても幸せな2人組になれるんだなと思うと恋はすごい。うらやましい。でも彼らを呪ったりはしない。基本的にはみんな幸せになってねと思う。エスカレーターでケツを揉み合うカップルには幸せになってねとは思わない。「私にもああいう時代がありました」とも思わない。

お疲れ日記

 ペットボトルのレモンティーをチンしてあっためたやつにハマり、2日で4リットルのレモンティーを飲んだところ太った。甘いものを摂りすぎると太る、当たり前の結果になって面白い。そして、私はレモンティーを飲みたいんじゃなくてすっぱくて甘いものを欲しているんだと思う。多分体が疲れている。

 疲れが如実に顔に出て、太ったのに目が窪んできた。もともとあるクマと連結して目の周りがガイコツっぽくなっている。アンパンマンのホラーマンが連想される。あのくらい陽気ならガイコツになっても安泰か?ホラーマンはガイコツマンじゃないの、今思えば不思議だ。

 電車の窓に映る自分は、クマがあって、髪も適当で、服の色もグレーとかでパッとしない。垢抜けなさともまた違うくったり感がある。言うなれば所帯染みている。芋っぽさがようやく抜けたかと思えぱこれだ。自分のダサさがずっと嫌だった。でも芋っぽかった頃の方が生命力に溢れていた。茹でたシャウエッセンみたいにパツパツとしていた。今の私はシワがよった安いウインナーだ。芋とウインナー。図らずもドイツに。クリスマスの甘いワインが飲みたい。

高尾山へ

 有休を使って高尾山に登ってきた。

 コンバースでも行けると聞いたので、かなり軽装備かつ街用のスニーカーで臨んだ。たしかに行けたけど、厚底が後半の足に重かったので登山っぽい靴があればもっと良かったなと思った。山の麓にサロモンのショップがあり、スニーカーを買って帰るか迷った。うまい戦略だ。普通にサロモン欲しい。

 

到着

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 高尾山口駅に到着。ここまで遠かった〜!本当はもうちょっと早く到着できる予定だったけど、特急と各駅停車を待ちがえてしまい時間をロスした。どの電車に乗ればいいのか未だにちゃんと分かっていない。そろそろ慣れたい。

 高尾山口駅隈研吾の建築らしい。モダンな見た目の駅だった。

 

リフト(上り)

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 途中まではケーブルカーかリフトに乗ってビュンと行くことができる。私はリフトを選択。足がブラブラする乗り物は面白いから好きだ。

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 リフト券を買って乗り場へ。この階段でもう息が上がる。

 係員さんの指示通りに動く。鈍臭い私でもスムーズにリフトに乗れた。係員さんの立っている後ろに、説明に使うフレーズが中国語と英語で書かれた紙が貼ってあった。日本語がわからない人も高尾山にたくさん登りに来るからこの紙を作ったのだろうな。無性にありがたい気持ちになった。サービスというものは「こうしたらもっと良くなるかな」みたいな不断の努力の上で成り立っているのだなあ。そう思うと、リフトのケーブルを繋げてくれた人ありがとう、落ちても大丈夫なようにネットを敷いてくれた人ありがとう、安全点検をしてくれた人ありがとう………と全てがありがたく感じられる。感謝しているとあっという間に着いた。

 乗るまでは、1人でリフトってやばいかなと心配だったが、私の他にも1人でリフトに乗っている人がたくさんいて安心した。

 

上り

 いざ登山!

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 高尾山には複数の登り方があり、行きは薬王院をお参り出来る道を選んだ。人の流れに沿って歩いていたので何号路を登ったのか正確に分からないけど、恐らく男坂経由の1号路だったのかなと思う。

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今回は行かなかったけど猿園もあった。一番年長の猿は私より年上だった。すごい。

 道が舗装されていたので歩きやすかった。息は切れるがスイスイ登ることができた。毎日ランニングしたりウォーキングしたりしているからその成果が発揮されたのだと思う。普段の自分に感謝!

 薬王院でおみくじを引いたら凶だった。薄目で読んだ後くくりつけてきた。占いは都合の良いところだけ信じたい。

 

山頂へ

 正確な時間はわからないけど、多分1時間かからないくらいで山頂に辿り着いた。「ここが山頂ですよ!」というランドマーク的なものが立っており、みんなそこで写真を撮っていたが、私は1人なのが恥ずかしくてランドマーク単体で撮った。

 平日でもまあまあ賑わっていたし、年配の方も結構いらっしゃるようだった。登山が趣味なんて素敵だな。展望台から望む山々はまだ青かった。紅葉の季節もさぞ美しいだろう。山はたくさんあったけど、どの山がなんて名前なのかは図を見ても難しい。分かればもっと楽しいんだろうな〜。知識は人生を豊かにする。高いところに登れば富士山が見えるかなと思ったけど、私は見つけられなかった。そもそも高尾山から富士山が見えるのかも知らない。私はまだ無知だ。

 座って休んでいたら寒くなったのでなめこ汁を食べた。

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400円。

醤油ベースのなめこ汁は初めて!疲れた体に行き渡る旨み。なめこのとろみのおかげでずっとアツアツで美味しかった。食べている途中で手に虫が止まった。たまたま「ガダラの豚」という嫌な感じで虫が出てくる本を読んでいたので異常にビビり、1人なのに大声を出してしまった。

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中島らもガダラの豚」。高尾山口駅までの長い電車移動のお供。行きの電車でⅡ、帰りの電車ではⅢを読んだ。勢いがあって面白い。

 

下り

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 吊り橋を渡ってみたくて4号路で下った。4号路はコンクリートで舗装されていない土の道だった。前日の夕方に東京で雨が降っていたので道がぬかるんでいないか不安だったけど、概ね問題なかった。

 コースの中ほどに立派な吊り橋がかかっていた。ここでは後ろの人に「写真撮ってください」が言えた。テンションが上がって気が大きくなったのかな?これも一種の吊り橋効果かもしれない。吊り橋はかなり頑丈そうだったが、「ガダラの豚」で嫌な感じの吊り橋のシーンがあったのでちょっと怖かった。

 その後も歩いて、1時間かからないくらいで高尾山駅まで着いた。4号路は自然がいっぱいで楽しいコースだった。次回来る際は、また4号路を使いたい。

 高尾山駅にはおしゃれな売店があり、そこで名物の天狗焼きを食べた。

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200円。

たい焼きみたいな感じで、中には黒豆の餡が入っている。焼きたてをちょうど食べられたからかもしれないが、これが!めちゃくちゃ美味かった。生地のモチモチ感といい、黒豆餡の歯応えといい、ホカホカさといい……。パーフェクトだ。また食べたい。

 

リフト(下り)

 行きと同じように麓までリフトに乗って下る。高低差がすごい。行きより断然怖い。行きは余裕のよっちゃんで「全てに感謝」とか抜かしていたが、下りはリフトのポールを握って冷や冷やしながら乗った。リフトは屋根が赤、青、黄色の3種類あり、私が乗ったのは赤だった。どの色のリフトも座面の色は赤と青のツートンだった。座面はビート板のような触り心地がした。ビビった分帰りの方が長く感じられた。

 

帰る

 早起きして出てきたのでまだ全然浅い時間!土日は下手すりゃこの時間まで寝ている。高尾山口駅直結の温泉に入るか迷ったけど、ゆったりして帰るのが遅くなり帰宅ラッシュに巻き込まれるのが嫌なので大人しく帰宅。電車を待っている間スマホを見たら、かつてないほどムーブリングがグルグル回っていた。たしかにたくさん歩いたもんな。いい運動になった!ここ最近急に涼しくなったので、往復しても汗びちゃびちゃにならず助かった。

 帰りは電車を間違えなかったのでスムーズだった。初台で途中下車して立ち食いそばの加賀で春菊天の乗ったそばを食べた。

 

その他

 タイミング的にララチューンのニシダ高尾山バラシの聖地巡礼になってしまった。奇しくも私も本をたくさん持って高尾山に登ったし。

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【感想】セックスエデューケーションS4

 セックスエデュケーションS4を見た。見始めたら止まらず、日曜日に1日かけて全部見てしまった。8時間ドラマ見てたってこと?こわ!!!

 

 今回はジーンやアダムパパ、ジャクソンのママなど親の立場の人の弱さにもフォーカスが当たっていた。大人になっても完璧になれない。メイヴの先生が「最初から全員(の才能)を見抜くのは難しい」と言っていた。先生とかカウンセラーの立場にいる人にはどうしても完璧であることを期待してしまう。でも、導く立場の人も間違えるんだ。そういうことをオーティスも選挙のPR動画で言っていた。

 信仰について悩んでいたエリックが啓示を受けて牧師になることを決意するシーンも素晴らしかった。エリックは次は自分が導く立場になろうとしているんだね。エリックを都合のいい親友キャラに留めないでくれた脚本にも感謝。

 

 このシーズンでは「対話から逃げない」ということを教えてくれた。「これ言ったら嫌われるかな」「恥かくかも」とか、言う前にたくさん考えちゃう。でも、リスクはつきもので、言わないと何も伝わらない。間違うことは恥ずかしいことじゃない。困ったら人に助けてもらえる。でも、助けて欲しかったらちゃんと困っていることを言わないといけない。アダムが方法を知らない状態で馬に乗ってみたように、展開が読めなくても言葉にして伝えるしかない。

 不確実性のこの時代に一番大事なのは対話だ。しみじみとありがたい作品だなあ。

 

 ただ、オーティスとメイヴの関係については胸が千切れるような思いだ。なんでこんなにすれ違うわけ?!ってずっとずっと思ってた。メイヴの選択はめちゃくちゃ正しいと思う。私が友達でも絶対そうしろって言う。でもオーティスとはそれでいいの……。夢も好きな人もどっちも取る道を選んじゃってもいいのに。最終的に大嫌いになってもいいから、上手くいかなくなるまで遠距離恋愛を続けてみたらいいのに!ララランドを見たとき「運命の人と一生幸せに暮らしましたとさ」以外のめでたしめでたしがあることに感銘を受けた。オーティスとメイヴの関係もそんな感じになったね。ただ、オーティスとメイヴはもうちょっと対話しても良かったんじゃないか。綺麗な思い出になんかせずに、言うことがなくなるまで話尽くしてから分かれればよかったんじゃないか。エリックには「話そう」って言えたのに、メイヴには「もう連絡しない方がいい」って、そんなのひどいよ〜!オーティス〜!!人の話を聞くのはうまいのに、自分はなんで何も言わないの!「メッセージが来ることを期待しちゃう」って!そう思うなら自分で送れよ!

 人生一筋縄じゃいかねーな!でも生きるしかないし、伝えるしかない。傷ついたり傷つけたりしても。

文庫本を抱えて部屋のすみへ

 気に入っている本ほど汚れている。今持っている本の中で一番汚れているのは近藤聡乃「ニューヨークで考え中」の1巻。信じられないくらいボロボロ。2巻以降もだいぶやばい。気に入った本は本棚に収納されている時間が短く、その分汚れリスクも高い。

 最近、江國香織の「ホリーガーデン」を読み返した。ホリーガーデンも何回も読んでいるのでボロボロだ。ピンク色の表紙が擦り切れている。本は周回ごとに感想が変わるのが面白い。今回はラストシーンにグッきた。救われる終わり方だね。

 私は物語に劇的な事件はいらないと思っている。人生が80年とか100年とかあって、その中の何年か(もしくは何日か)をパツンと切り取ったような物語が好きだ。本を閉じた後も登場人物の人生は続いていると思わせて欲しい。江國香織はそういう物語を書くから好きだ。たぶんそれは登場人物の細かい生活のディティールが書かれているからだ。ストーリーを展開させるために存在しているわけではない。紅茶を飲み、音楽を聴き、買い物をするなかに出来事があるだけだ。

 江國香織の本を読んだあとは頭の中の地の文も江國香織の文体になる。地の文のスピードがゆっくりになって、動作の一つ一つを意識する。窓を開けるだけでも、入ってくる風を感じ、外を走る自転車の音を聞き、向かいの家の木の緑をさやかに見るようになる。影響されて私も生活を細かく描写する。私の物語もまた、生活の中に存在する。

みかん

 終電間際の電車で私は入り口付近でうつむいて立っていた。電車が駅につき、ドアが開いて人がドヤドヤと入ってくるなかで、不意に強い芳香を嗅いだ。平日夜のくたびれたサラリーマンの群れにふさわしくない匂いだ。なんの匂いだろう。グレープフルーツのハンドクリームかしら。私は顔を上げて匂いの方をこっそり盗み見た。

 私の斜め後ろを陣取っているサラリーマンが、まさに今、みかんを剥いていた。

 サラリーマンがあんまりに自然だったのでだれも気にしていない様子だった。電車で生の果物を食べている人を見るのは初めてだ。こういうことしていいんだ!と素直に感動した。マリオの知らないコースを見せられた気持ちだった。

 みかんの爽やかな香りが忘れられず、翌日オレンジジュースを飲んだ。

髪の毛

 部屋を丸く掃いたらクイックルワイパーの両端に髪の毛がたくさんひっついていた。昨日も掃除したのになぜ。昨日も昨日で大漁だった。掃除の雑さが問題なのではない。髪が抜けすぎている。風呂場や部屋だけじゃなく、トイレにも髪の毛がたくさん落ちていた。トイレにいる時間なんてたかだか数分なのに!

 クイックルワイパーからシートを剥がす。なるべく髪の毛部分を触らないようにつまむようにしてゴミ箱に捨てる。手が不潔になった感じがするから石鹸で洗う。元は自分のものなのに落ちている髪の毛の汚さといったらない。私は頭を撫でるように髪の毛を触る癖があり、毎日何回も髪をゴシゴシ触っている。それなのに、床に落ちた髪の毛は指も触れたくないように感じてしまう。自分の一部であるときは仲間だけど、分離すると余所者になる。身勝手だ。

 でもな〜。落ちてる髪の毛ってなんかゴソゴソして嫌な感じがするから嫌なんだよな。オイルを塗ってツヤツヤになるように手間暇かけているのに、抜け落ちた髪の毛は羅生門の老婆も欲しがらないようなパサパサの一筋だ。

 ただ、毎日ある程度の髪の毛が抜けるのは問題ないらしい。代謝しているから仕方ない。私だけじゃなくみんなもそうなんだなと思うと安心する。たしかに、友人たちとホテルに連泊したとき、2泊目にして風呂場の排水口が髪の毛で詰まったことがあった。女3人もいれば抜ける髪の毛の数も相当だったのだろう。

 毎日何十本も抜けて、きっとそれと同じくらい新しい毛が生えている。私は髪が短いから1番長い部分でも1年以内に生えた毛だろう。長くて1年、それよりもっと短く抜けるものもあり、定期的に一定数が切られる。めちゃくちゃ苛烈な会社みたいだ。そう思うとかわいそうになってきた。髪伸ばそうかな。